2019.3.20

澤井弁護士が「インサイダー取引」について解説した記事がRakuten Infoseekで配信されました!

「ケースで学ぶインサイダー取引」:マネートラブルSOS!家計の法律

(トウシル、2019年3月12日 9時10分)

 

 忍び寄る身近なマネーのトラブルについて、法のスペシャリストが過去の刑事事件、民事事件も交えながらわかりやすく解説する新連載がスタートしました。

事前に家計の法律を知ることで、みなさまの大切な資産を守るヒントに役立てていただけると幸いです。

 

 第一回テーマは「インサイダー」。

さっそく、4人のケースをみながらインサイダー取引について学びましょう。

無題

(ケース)A株式会社は業績好調のため前年度と比較して50%増の剰余金配当を実施することを役員会で決定した。

 

 A社のX部長は、社内の会議で上記報告を受けたことからA社の株が値上がりすると考え、上記事実が公表される前にネット証券を通じ自己名義でA社株を購入し、上記事実の公表後に高値で売り抜けた。

 

 Y子はA社にパート事務員として雇われており、上司の指示により会議用書類のコピー取り作業をしていたところ、たまたまその中に含まれていた剰余金配当に関する機密書類を見てしまい、同じくA社の株が値上がりすると考えネット証券を通じ自己名義でA社株を購入した。

 

しかしながらY子はもしかしたらインサイダー取引になるのではないかと心配し、A社株を購入したものの高値で売り抜けることはせず、そのまま保有した結果、A社株は下落し含み損を抱えてしまった。

 

 Z男はA社とは何ら関係のない外部の人間であるが、X部長の大学時代の友人であり、飲み会の席でX部長から剰余金配当の事実を知らされ、同じくA社の株が値上がりすると考えたが、自己資金のみではA社株を購入できない状態であった。

 

 そのため、Z男は友人のV美にA社の剰余金配当の事実を打ち明けて相談し、Z男の資金とV美の資金を合わせてネット証券を通じてV美の名義でA社株を購入し、その後、高値で売り抜けることに成功し、利益を2人で分配した。

 

第1 はじめに

 「インサイダー取引」は誰でも聞いたことがある用語だと思います。

大まかに言うと会社の内部情報を利用して株取引を行い、利益を得ることがインサイダー取引に該当し、これは違法だからいけないことなのだということは理解していると思います。

 しかしながら、具体的ケースにおいて誰のどういう行為がインサイダー取引にあたるのかということはなかなか判断が難しいのではないかと思います。

例えば上のケースでいうとA社のX部長の行為がインサイダー取引にあたることは皆さんおわかりだと思います。

でもA社のパート事務員にすぎないY子はどうなのか、しかもY子は結果的に利益を得ていないけど、これでもインサイダー取引にあたるのか。

それからZ男はX部長から情報を聞いた外部の人間に過ぎず、V美に至ってはX部長から話を聞いたZ男からの又聞きという関係にあります。

こういう場合に果たして一体どこまでがインサイダー取引になるのか、よくわからないと思います。

 そこで今回は上に設定したケースを題材として、誰のどういう行為がインサイダー取引になるのかということについてわかりやすく解説していこうと思います。

 

第2 インサイダー取引の要件とは

 一般にインサイダー取引とは、上場会社等の会社関係者(会社関係者等)あるいは当該会社関係者から情報を得た者(情報受領者)が、投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす重要事実を知って、その事実の公表前に当該会社の株式等の有価証券の売買等の取引をすることをいいます。

 インサイダー取引が禁止されている制度趣旨は、このようなインサイダー取引が行われると一部の者がインサイダー情報を利用して一般投資家に比べて有利な取引をすることができてしまい極めて不公平であり、結果として 証券市場の公正性や健全性が損なわれてしまうからです。

 

 したがって、インサイダー取引の要件をおおまかに列挙すると
1.会社関係者が
2.上場会社等の業務に関する重要事実を
3.その者の職務等に関し知りながら
4.当該事実の公表前に
5.当該上場会社等の株券の売買等を行うこと

になります。

 

 以下では設問のケースに即して各登場人物の行為がインサイダー取引にあたるのか検証していきます。

 

 

答え合わせ:さっそく、登場人物にあてはめてみよう!

 

 

(1)X部長の場合

x

X部長はA社の幹部ですが、インサイダー取引の主体となりえるか一応確認していきます。

まず当該上場会社等の役員、代理人、使用人その他の従業者」(会社関係者)はインサイダー取引の主体とされています(金融商品取引法166条1項1号)。

 そうするとX部長はA社の従業員ですので「使用人その他の従業者」にあたり、インサイダー取引の主体になりえます。次に高額の剰余金配当は投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす重要事実にあたるとされています(金融商品取引法166条2項1号ト、取引規制府令49条1項4号)。

 X部長は、高額の剰余金配当という投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす重要事実を知って、事実の公表前にA社株を購入していることから、インサイダー取引の全ての要件を満たします。したがって、X部長の行為はインサイダー取引にあたるという結論になります。

 

 

(2)パート事務員Y子の場合

Y

ア:Y子はA社の正社員ではなくパートで雇われた事務員にすぎません。このようなY子でもインサイダー取引の主体となるのでしょうか。一般的にインサイダー取引の主体となる「使用人その他の従業者」は法人との間の雇用関係その他の契約関係の有無を問わないし、形式的な地位や呼称にかかわらずその会社の業務に従事する者が含まれると解釈されています。

したがいまして、その会社の正社員はもちろん、アルバイトやパートであっても含まれます。さらにその会社と契約関係がなくても、その会社の指揮命令を受けて業務に従事する関係にあればよいので派遣元から派遣されている派遣社員もこれに含まれます。

そうするとパート事務員にすぎないY子も「使用人その他の従業者」といえインサイダー取引の主体となります。

 

イ:次にY子は上司の指示により書類のコピー取り作業をしていたところ、たまたまその中に含まれていた機密書類を見て重要事実を知っています。このような場合でも使用人その他の従業者が「職務に関し知った」といえるかが問題となります。
証券取引等監視委員会は「職務に関し知った」について職務に密接に関連する行為により知った場合を含み、職務とはその者の地位に応じた任務として取り扱うべき一切の執務をいい、現に具体的に担当している事務であることも要しないとかなり広く解釈しています。そうするとY子は上司の指示によりコピー取り作業という職務に従事しており、その作業中に重要事実を知ったことから、まさに「職務に関し知った」にあたります。

 

ウ:最後にY子は公表前にA社株式を購入したものの、途中でインサイダー取引を恐れ売り抜けることをせずにA社株を保有し続けた結果、A社株の下落で含み損を抱えている状態です。要するにY子はインサイダー取引のようなことをしたのですが利益を得ることはできずかえって損害を被った状態なのですが、このような場合であってもインサイダー取引にあたるのかが問題になります。

インサイダー取引を規定する金融商品取引法166条1項は「売買等」自体を禁止しています。したがいまして、Y子は重要事実を知って公表前にA社株を購入した時点で「売買等」をしたということになり、インサイダー取引違反になります。結果的に利益を得たとか損をしたというのはインサイダー取引違反の成立には関係ないということになります。

 

エ:以上より、パート事務員Y子の行為はインサイダー取引にあたるという結論になります。

 

 

(3)X部長の友人Z男の場合

Z

Z男はA社とは関係のない外部の人間であり、X部長の個人的な友人にすぎないことから、「当該上場会社等の役員、代理人、使用人その他の従業者」(会社関係者)にはあたりません。そうするとZ男が重要事実を知って公表前に株を購入してもインサイダー取引にあたらないことになってしまいます。

 

しかしながら、このような場合を規制対象としないと容易に脱法的な取引が行われてしまい結果的に証券市場の「公正性」と「健全性」に対する一般投資家の信頼を確保することができなくなってしまいます。そこで金融商品取引法166条3項は会社関係者から重要事実の伝達を受けた者(情報受領者)についても公表前の売買等を禁止し、情報受領者についてもインサイダー取引の規制対象としているのです。

 

そして情報受領者については、会社関係者から重要事実の伝達を受けただけで足り、情報受領者自身の地位や当該会社との関係は問わないとされています。
ですので、会社関係者から重要事実の伝達を受ければ「情報受領者」となりますので、例えば、接客中に会社関係者から重要事実を聞いたキャバクラのホステス、酔っぱらった会社関係者から重要事実を聞かされた居酒屋の店主、会社関係者の夫から重要事実を聞かされた妻であっても「情報受領者」にあたります。

 

ただし、「情報受領者」にあたるためには「伝達を受けた」ことが必要なので、会社関係者に伝達意思があるとはいえない場合は「情報受領者」にはあたりません。

例えば、会社関係者が会話しているのを電車の中で偶然立ち聞きした場合とか、その会社の前を通りかかった通行人が落ちていた会社の機密資料を拾って中身を盗み見てしまった場合などは「情報受領者」にはあたりません。

 

以上より、Z男はX部長から重要事実の伝達を受けて公表前にA社の株式を購入していることからインサイダー取引違反が成立します(Z男はV美の名義で株式を購入していますが、後述のとおりV美との共犯が成立します)。

 

 

(4)Z男のそのまた友人V美の場合

今まで検証してきたとおり、A社のX部長が会社関係者であり、その友人Z男はXから情報の伝達を受けた一次情報受領者にあたります。

では一次情報受領者からの又聞きという形で情報の伝達を受けた二次情報受領者であるV美もインサイダー取引の規制対象となるのでしょうか。

原則として一次情報受領者から情報の伝達を受けた二次情報受領者はインサイダー取引の規制対象にはならないとされています。

なぜかというと二次情報受領者までインサイダー取引の規制対象に含めてしまうと処罰範囲が不明確に拡大してしまい、かえって証券取引ないし証券市場を混乱させてしまうからです。
そうすると一次情報受領者Z男から情報を又聞きした二次情報受領者であるV美は、インサイダー取引の規制対象とならないことから、本件についてはお咎め無しということになりそうなのですが、一次情報受領者Z男と協力して株取引を行い利益まで得ている以上、余りにも不当ですよね。

そこで二次情報受領者V美に対しては一次情報受領者Z男の共犯としてインサイダー取引違反を問うことが考えられます。インサイダー取引違反は5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金(金融商品取引法197条の2)ですので、れっきとした犯罪です。

 

犯罪行為である以上、刑法総則の共犯規定が適用されます。すなわち数人で殺人事件や強盗事件を犯した場合にその共犯が成立するのと同様にインサイダー取引にもその共犯が成立するのです。

 

V美は一次情報受領者Z男からインサイダー取引を持ちかけられ、お互いに資金を出し合いV美名義で株を購入し、利益も分配していることから、Z男との共同正犯が成立します。

要はZ男とV美は2人仲良く協力してお互いを利用補充し合ってインサイダー取引という犯罪を実行した以上、2人とも共同正犯として刑事責任を負うということです。
したがいまして二次情報受領者にすぎないV美についても一次情報受領者Z男の共同正犯としてインサイダー取引が成立します。

 

ちなみに本ケースと同様に一次情報受領者と二次情報受領者との間にインサイダー取引の共同正犯を認めた裁判例があります(東京地裁平成27年11月25日判決)。

 

二次情報受領者だからといってインサイダー取引にならないわけではありません。一次情報受領者との協力関係の有無やその程度によっては一次情報受領者との共犯が成立することに注意しましょう。

 

 

◎まとめ

 いくつ正解しましたか?

各登場人物についてインサイダー取引が成立するか否かについて検証してきましたが、具体的なケースを前提にすることで理解が深まったのではないかと思います。

 

(澤井 康生)

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