2019.7.17

澤井弁護士が「損失補てん」について解説した記事がRakuten Infoseekで配信されました。

投資の損失カバーします!「損失補てん」はご法度、接待も✖!

投資家も逮捕の場合がある?MBA弁護士が解説!

トウシル / 2019年7月16日 10時28分

 

今さら聞けない損失補てんって何?

6月20日、FX(外国為替証拠金取引)を扱うT証券会社が顧客の出した損失を補てんしたとして、東京地検特捜部から強制捜査を受け、金融商品取引法違反で同社幹部らが逮捕されました。

ところで、この事件の容疑である「損失補てん」。逮捕されるほど悪いことなの? そもそも損失補てんって何なの? と疑問を感じている方もいらっしゃると思います。

今回はこの「損失補てん」について、解説していきます。

 

社会問題化した証券不祥事。損失補てん禁止規定はなぜできた?

話は現在の金融商品取引法の前身、1965(昭和40)年(私も生まれていません!)の証券取引法の時代までさかのぼります。

現在では信じられないことですが、昔は売買注文を大量に受けるため、顧客に損失保証や特別の利益提供を、証券会社が約束していました。

しかし、昭和40年の法改正で、投資者を保護する目的で、損失保証や特別の利益提供による勧誘行為について、不当な勧誘行為の規制という観点から禁止されることになりました。この時点では損失補てん自体を禁止するものではなく、損失補てんを営業手段とする「勧誘行為」を禁止したに過ぎませんでした。

それから26年後の1991(平成3)年6月、大手証券会社を含む多数の証券会社が、一部の顧客に対して多額の損失補てんを行っていたことが発覚。いわゆる「証券不祥事」と言われる一連の事件で、社会問題となりました。

この証券不祥事を受け、平成3年10月に再び証券取引法が改正。損失補てん自体を禁止するとともに、違反した場合には刑罰まで科すことになりました。後に、1998(平成10)年の証券取引法の改正では、規制対象に有価証券店頭デリバティブ取引が追加。そして、証券取引法が現在の金融商品取引法に生まれ変わるタイミングで、適用対象がデリバティブ取引全般に拡大され、現在に至ります。

 

損失補てん禁止の理由とは

ところで、損失補てんが法で禁止され、刑罰まで科されるのはなぜなのでしょうか。

その理由は、金融商品取引業者などによる損失補てん行為が、資本市場における価格形成機能を歪め、また市場仲介者としての中立性、公平性を損なうことで、投資者の資本市場に対する信頼を大きく損なうことを防ぐためです。

証券会社などの金融商品取引業者が、特定の一部大口顧客にだけ「損失が出たから補てんします」と対応したら、他の顧客は「そんなのずるい。不公平だし、許せない。投資なんかしたくない」と考えますよね。

公平な資本市場を保つため、損失補てんといった不正行為は刑罰をもってまで禁止されているのです。

 

接待を受けたら処罰の対象となる!?

損失補てん禁止規定は証券会社が顧客に対して損失補てんを行うことを禁止するだけではなく、顧客が証券会社から損失補てんを受けることも禁止しています。つまり損失補てんを受けた側も処罰の対象になるのです。

その内容を簡単に説明します。

 

1:証券会社の禁止行為

証券会社が顧客に対し、次の行為を行うことを禁止しています。

(1)事前の損失保証の申し込み・約束

(2)事後の損失保証の申し込み・約束

(3)損失補てんの利益の提供を行うこと

つまり「事前、事後に損失補てんの申し込み、約束はしちゃダメですよ」「実際に損失補てんのために財産上の利益の提供しちゃダメですよ」ということです。

 

2:顧客の禁止行為

顧客が証券会社に対し、次の行為を行うことを禁止しています。

(1)事前の損失保証を要求しこれを約束させること

(2)事後の損失保証を要求しこれを約束させること

(3)これらの約束により実際に利益提供を受けること

つまり「事前、事後に損失補てんの約束させちゃダメですよ」「実際に損失補てんのために財産上の利益の提供を受けちゃダメですよ」ということです。

損失補てんを受ける顧客も処罰の対象とされている理由は、顧客によるこれらの行為が、証券会社の違法行為に加担してこれを助長するものであり、証券会社の中立性、公正性を損なわせる悪質性の高い行為であると考えられているからです。

ただし、証券会社と顧客で異なる点があります。

証券会社は顧客に対し、損失補てんの申し込みや提供(証券会社側の一方的な行為で足ります)をするだけで違法となるのに対して、顧客側は証券会社に対して損失補てんを要求するだけでは足りず、証券会社にこれを約束させることまで必要とされている点です。

また、刑事罰の法定刑は証券会社(懲役3年以下もしくは300万円以下の罰金、またはこれらの併科刑)と比べ、顧客(懲役1年以下もしくは100万円以下の罰金、またはこれらの併科刑)は軽いものになっています。

さらに顧客に損失補てんで受けた不正な利益を保持させないために、補てんを受けた財産上の利益は没収されることになっています。

 

3:財産上の利益とは

損失補てんのための財産上の利益は経済的な取引の対象となる利益であれば幅広く含まれます。

例えば現金、有価証券、不動産、本来有償であるべきサービスの無償提供、ホテルやスポーツ施設の無償利用、物品の割引販売や高値での買い入れなどです。お酒や食事の接待を受けることも、本来有償であるべきサービスの無償提供に該当します。

ですので顧客が証券会社から損失補てんの目的でお酒や食事の接待を受けることも違法な損失補てんにあたり、処罰を受けることになります。

 

損失補てんOKの場合もある!?

紹介のとおり、原則として損失補てんは違法であり許されませんが、例外的に許される場合もあります。

証券会社やその役員、使用人の違法行為、不当行為(いわゆる事故)により顧客に損失が発生した場合、事故による損失を賠償するための損失補てんは例外的に認められています。

証券会社側の事故により、顧客に損害が発生した場合、顧客は民事上、証券会社に対し損害賠償を請求できる権利を持っています。このような場合にまで損失補てんを禁止してしまうとかえって投資者保護が図れなくなってしまうので、例外とされているのです。

ただし、この場合でも事故を口実にして損失補てんがなされるのを防止するため、事故による損失であることを、あらかじめ内閣総理大臣の確認を受けなければならないとされています。

ちなみに「事故」というのは、次のケースなどが当たります。

(1)顧客から注文を受ける際に確認不十分で、本来の注文とは異なった取引をしてしまった場合

(2)有価証券の性質や取引の条件について顧客に誤認させるような勧誘をした場合

(3)顧客の注文を受けたのに過失により処理を誤った場合

(4)電子情報処理組織の異常により顧客の注文を誤る場合

(5)無断売買など、その他法令に違反する行為

 

まとめ

損失補てんは原則違法です。顧客が証券会社から損失補てんのために何らかの利益を受けた場合も違法な損失補てんとなり、証券会社だけではなく顧客が処罰される場合もありますので、気をつけましょう。

 

(澤井 康生)

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