2019.4.19

澤井弁護士が「日産ゴーン事件」による株価下落と損害賠償の可否について解説した記事がRakuten Infonewsで配信されました!

「日産ゴーン事件」による株価下落で損害を被った投資家が、ゴーン被告や日産自動車などへ損害賠償が請求できるか?

(トウシル、2019年4月18日 14:45)

 

1)はじめに

 日産自動車のゴーン会長は、2018年11月、長年にわたり自身の報酬額を少なく見せかけた額を、有価証券報告書に記載していたとして、東京地検特捜部により逮捕されました。他にも、会社法の「特別背任罪」などの逮捕を経て起訴されています。日産の株価について、ゴーン被告逮捕前では1,025円前後でしたが、逮捕後は一時854円まで下落しました。この大幅な下落により、損害を被った投資家もいるでしょう。

 

 そこで今回は、「日産ゴーン事件」による株価下落で損害を被った投資家が、ゴーン被告や日産自動車などへ損害賠償請求ができるかという問題について解説します。

 

2)有価証券報告書の虚偽記載とは

 みなさんご存知のとおり、有価証券報告書は事業年度毎に作成される企業内外部への開示資料で、略して「有報」と言われています。

 

 投資家は、この開示された有価証券報告書の情報に基づいて投資取引を行います。金融商品取引法において、有価証券報告書の重要事項について虚偽の記載があった場合、当該有価証券を取得したまたは処分した投資家は、その被った損害について、発行会社やその役員に対し損害賠償請求できると規定しています(同法21条の2第1項)。

 

「日産ゴーン事件」の場合も、実際の役員報酬を少なく見せかけた虚偽の金額を有価証券報告書に記載していたことから、上記金融商品取引法の規定に基づいて損害賠償請求することが考えられます。

 

 過去にも有価証券報告書の虚偽記載による多額の損害賠償請求が認められた事件としては、「ライブドア事件」や、「オリンパス事件」などがあげられます。これらの事件は、粉飾決算損失隠しなど企業の財務状況を偽る虚偽記載だったことから「重要な事項」についての虚偽といえ、損害賠償請求が認められました。

 

 しかしながら「日産ゴーン事件」の場合は、企業の財務状況ではなく役員報酬を少なく見せかけたに過ぎないことから、このようなケースが「重要な事項についての虚偽」と言えるのか、前例がないためなんとも言えない状況です。

 

 投資家のみなさんは、株取引を行うときに有価証券報告書をご覧になると思いますが、業績や財務状況は見ても取締役の報酬まで細かくは見ないと思います。このように考えると、取締役の報酬に関する虚偽記載は、投資家の投資判断に影響を与えないのだから「重要な事項」ではないと言うこともできます。

 

 これに対し、取締役の報酬が極めて巨額であった場合、そのような会社はガバナンスが効いていないとみなし、そんな会社の株式なんか買わないと判断する投資家もいるかもしれません。そうすると、取締役の報酬に関する虚偽記載が投資家の投資判断に影響を与えるため「重要な事項」にあたると言うこともできます。

 

 結局、取締役の報酬に関する虚偽記載が「重要な事項」に該当するかどうかは前例がないため、今後の刑事裁判などで経過を見るしかありません。

 

 ただ、ここで「重要な事項」にあたらないといってしまうと話が終わってしまいますので、以下では取締役の報酬に関する虚偽記載が「重要な事項」に該当すると仮定して話を進めます(※あくまでも、仮定のお話しです)

 

3)どのような損害を賠償請求できるのか

1:公表1年前から株式を保有していた投資家には、損害額が推定される

 取締役の報酬に関する虚偽記載が「重要な事項」にあたると仮定した場合、日産の株式を取得して損害を被った投資家は、金融商品取引法の規定に基づいて損害賠償請求することができます(同法21条の2第1項)。

 

 この規定は虚偽記載を抑止して、投資者が有価証券報告書において開示された情報を信頼して投資判断を行うことを可能とすることを目的としています。

 

 もちろん損害を被った全ての投資家が損害賠償請求をできるわけではありません。有価証券報告書の縦覧期間のうち

・株式を取得したこと

・虚偽記載が原因で損害が生じたこと

・株式取得の際に虚偽記載を知らなかったこと

上記の要件を満たす必要があります。

 

 次に、どのような損害を賠償請求できるかですが、金融商品取引法は投資家が虚偽事実公表1年前から株式を保有していた場合に、損害額を推定するという規定を設けています(同法21条の2第3項)。

 

 この場合、投資家の損害額は公表日前後の各1カ月間の市場平均価格の差額を損害とすることができます。ただし、これには上限規定というものがあり、損害賠償請求時すでに株式を処分していた場合は、取得価格から処分価格を引いた差額が、株式をまだ保有している場合には損害賠償請求時の市場価格との差額が上限となります。

 

 例えば、公表前1カ月の市場平均株価が1,000円、公表後1カ月の市場平均株価が800円とした場合、その投資家がもともと900円で株式を取得していて公表後に800円で処分したケースでは、投資家の損害は1株200円となりそうですが、上限規定があるため1株100円として計算されます。

 

 なお、投資家が虚偽事実公表1年前から株式を保有していなかった場合は、上記の推定規定が適用されません。個別の損害が虚偽記載により生じたことを証明する必要があります(同法21条の2第1項)。

 

2:虚偽記載を知っていた投資家は保護されない

 さきほど説明したように、株式を取得したときに虚偽記載を知っていた投資家は損害賠償請求ができません(同法21条の2第1項ただし書き)。

 有価証券報告書を信頼せずに、投資判断を行ったことが明らかな人にまで、同条による保護を与える必要性はないからです。

 

 では、虚偽記載は公表されていないけれど、当該企業に不適切な会計処理が行われた疑いで第三者委員会など設置されたことが発表され、株価が大幅に下落した後に反騰狙い(いわゆる逆張り)で株式を取得した投資家は、損害賠償請求できるでしょうか?

 

 この点について、東京高裁での平成29年9月25日の判決を見てみましょう。第三者委員会の設置により株価が大幅に下落していることを認識した投資家が、同委員会の設置発表後に株式を取得した場合、その投資家は今後の株価の動向が虚偽記載による影響を受ける可能性があることを認識した上であえて株価下落のリスクを引き受けて株式を取得したものというべきであり、有価証券報告書を信頼せずに投資判断を行ったことが明らかな者に該当するとし、上記ただし書きの準用により損害賠償が請求できないと判断しました。

 

 したがって、虚偽記載自体はまだ発表されていないから知らないけれど、第三者委員会等の設置が発表され、株価が大幅に下落しているような状況下で、あえて反騰狙いで株式を取得した投資家は、たとえその後に虚偽記載が公表され損失を被ったとしても、損害賠償請求はできないということになります。

 

3:虚偽記載と関係のない、株価下落分はどうなるのか

A― 純粋に無関係な要因の場合

 上記のとおり、所定の要件を満たした投資家は損害額が推定されますが、虚偽記載と関係のない株価下落分が含まれている場合もありえます。例えば、経済情勢や、市場動向、その会社の業績などの虚偽記載とは関係のない市場価格の下落分です。

このような場合、金融商品取引法は、賠償義務者側が虚偽記載によって生ずべき値下がり以外の事情によって生じたことを証明した場合には、賠償額を減額すると規定しています(同法21条の2第5項)。

 

B― ろうばい売りによる、株価下落の場合

 ではいわゆる「ろうばい売り」で株価が下落した場合はどうなるのでしょうか? 「ろうばい売り」とは何らかのニュースや相場環境により、株価が急激に下落した際に心理的に混乱を生じてパニックとなり、保有する株式を大慌てで売却してしまう現象です。確かに「ろうばい売り」は投資家がろうばいして次々に株式を売却することでさらに株価が下落する現象ですから、虚偽記載とは直接関係ないと思われます。

 

 しかしながら、「※西武鉄道事件」についての最高裁での平成23年9月13日判決は「虚偽記載が公表された後の市場価格の変動のうち、ろうばい売りが集中することによる過剰な下落は、有価証券報告書に虚偽の記載がされ、それが判明することによって通常生ずることが予想される事態であって、虚偽記載と相当因果関係のない損害として控除することはできない」つまり「ろうばい売り」による下落分も損害賠償請求できると判断しています。

 

※西武鉄道事件とは
2004年、西武鉄道が、有価証券報告書において名義を偽装する虚偽記載を行っていたことが発覚し、東京証券取引所の定める上場廃止基準に抵触するとされ、上場廃止になった事件

 

C― 逮捕、過熱報道、信用低下による株価下落の場合

 次に、その会社の代表者が逮捕されたことや報道機関による過熱報道や、株式の監理ポスト割当てなどで企業イメージや信用が悪化したことによる株価の下落はどうなるのでしょうか? これも虚偽記載とは直接関係ないと思われます。

 

 しかしながら、ライブドア事件について最高裁の平成24年3月13日判決では「虚偽記載によって生ずべき値下がりとは、虚偽記載と相当因果関係のある値下がりの全てをいうものと解するのが相当である」とした上で代表者の逮捕などの強制捜査が行われ、過熱報道などの事情は虚偽記載の発覚によって通常起こりえる事態であるとして、それによる株価下落分も損害賠償請求できると判断しています。

 

D― まとめ

 以上より、取締役の報酬に関する虚偽記載が「重要な事項」に該当すると仮定した場合の話ですが、虚偽記載により損害を被った投資家は金融商品取引法の規定により算定された損害(この損害はろうばい売りや過熱報道などによる株価下落も含まれますが、虚偽記載とは関係のない市場価格の下落は含まれません)について賠償請求することは可能ということになります。

 

4)日産とゴーン被告との法律関係、そして株主代表訴訟

A― ゴーン被告の、日産に対する損害賠償請求は? 

 

 ゴーン被告は日産の取締役を解任されましたが、任期の定めがあるにもかかわらず正当な理由がなく解任された場合、解任された者は会社に対し損害賠償請求ができます(会社法339条2項)。

 解任の正当な事由には、取締役の職務執行上の法令定款違反行為や心身の故障により職務執行に支障があること(最高裁昭和57年1月21日判決)、経営能力の著しい欠如が含まれるとされています。したがって、今後の刑事裁判でゴーン被告の違法行為が認められた場合には、ゴーン被告は日産に対し解任による損害賠償請求はできないということになります。

 

B― 日産の、ゴーン被告に対する請求と株主代表訴訟は?

 

 日産としては、ゴーン被告が特別背任などを行い会社に損害を被らせたとして、取締役の法令定款違反に基づき損害賠償請求することが考えられます(会社法423条)。

 

 万が一、会社側が取締役となれ合いになるなどして、損害賠償請求しない場合に備えて、会社法は「株主代表訴訟」という制度を規定しています(会社法847条)。

 

 株主代表訴訟について、6カ月前から株式を保有している株主は会社に対する提訴請求を行うことができ、会社が60日以内に提訴しない場合には、その株主は会社に代わって提訴することができるという制度です。株主は1株しか所有していなくても提訴することができます(ただし定款の定めにより単元未満株主は不可とされる場合があります)。

 

 つまり会社が持っている損害賠償請求権を、株主が代わって行使することができるという制度です。

 

 したがって、今後、刑事裁判でゴーン被告の違法行為により日産に損害が生じたことが明らかになったにもかかわらず、日産がゴーン被告に対する損害賠償請求をしないときは、株主が日産に代わって代表訴訟を起こすことも可能ということになります。

 

 日産株式を保有している投資家は、株主としてゴーン被告に対し代表訴訟を提起することもできるということです。

 

(澤井 康生)

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