2025.12.2
【Q&A】002 院内での貴重品の紛失の責任
Q
診療所内のスタッフ用の控室のロッカーからあるスタッフの財布が紛失しました。この場合、誰が法的な責任を負うのですか。
A
「雇用主(診療所)」と「従業員(スタッフ)」の間で起きた問題です。
この場合、診療所側が「安全配慮義務」をどの程度果たしていたかが、最大の焦点となります。
1. 原則は「スタッフ(従業員)の自己管理」
まず大前提として、スタッフが任意で職場(控室)に持ち込んだ私物(財布、携帯電話など)は、原則としてそのスタッフ自身が管理する責任を負います。
診療所はスタッフが私物を持ち込むことを許容していますが、それらすべてを「預かっている」わけではありません。したがって、単に「控室で盗難があった」という事実だけで、診療所が直ちにすべての賠償責任を負うわけではありません。
2. 診療所(雇用主)が責任を負う可能性のあるケース
ただし、診療所側が職場環境の安全性を確保するために必要な措置を怠っていたと判断される場合、例外的に法的責任を問われる可能性があります。
ⅰ ケースA:診療所の「安全配慮義務」違反が認められる場合
雇用主は、従業員(スタッフ)が安全かつ健康に働けるよう配慮する義務(安全配慮義務)を負っています。この義務には、従業員の生命・身体だけでなく、盗難被害などから従業員の財産を守るための「施設管理上の配慮」も含まれると解釈される余地があります。
例えば、以下のような状況が認められると、診療所側の「安全配慮義務違反(施設管理の不備)」が問われ、損害賠償責任(被害額の一部または全部)を負う可能性があります。
➤ロッカーに鍵がなかった、または壊れていた場合:
スタッフ控室のロッカーに施錠設備がなかったり、鍵が壊れていることを認識しながら放置したりしていた場合。
➤控室のセキュリティが著しく甘かった場合
控室のドアが常に開けっ放しで、患者様や外部の人間が容易に侵入できる状態であった場合。
➤過去の盗難被害を放置していた場合
以前から同様の「ヒヤリハット」や小規模な盗難が報告されていたにもかかわらず、防犯カメラの設置や施錠の徹底といった具体的な対策を何ら講じていなかった場合。
これらの不備が盗難の発生を容易にした(盗難との間に因果関係がある)と評価されれば、診療所が責任を負うと判断される可能性があります。
ⅱ ケースB:他のスタッフによる盗難が疑われる場合(使用者責任)
万が一、盗難が他のスタッフによる内部犯行であったことが判明した場合、その盗難を行ったスタッフ自身が法的責任(不法行為、窃盗罪)を負います。
それに加え、診療所もそのスタッフを雇用する立場として「使用者責任(民法第715条)」を問われ、被害者であるスタッフに対して損害賠償責任を負う可能性がないとは言えません。
3. 診療所として取るべき対応と再発防止
まずは、被害に遭われたスタッフへのフォローと、警察への被害届の提出を促すことが重要です。そのうえで、院内でも事実関係の調査(控室の状況確認、他のスタッフへのヒアリングなど)を誠実に行う姿勢が求められます。
しかし、最も重要なのは再発防止策です。 ロッカーの施錠を徹底するよう指導する、鍵のないロッカーには鍵を設置する、控室の入退室管理を見直すなど、具体的な対策を講じることが、スタッフの皆様が安心して働ける環境の維持・回復につながります。
~弁護士法人海星事務所にできること~
このような職場内の盗難事件は、単なる金銭的な問題ではなく、労務管理や職場環境整備といった、クリニック経営の根幹に関わる問題です。
私ども弁護士法人海星事務所は、企業法務(特に使用者側の労務問題)や医療分野を専門的に取り扱い、弁護士業務20年以上の豊富な実績がございます。
東京・大阪の事務所から全国対応も行っております。今回の事後対応(被害スタッフへの説明や示談交渉)や、就業規則の見直し、再発防止策の策定など、法的な観点からクリニック経営をサポートいたします。
まずは一度、詳しい状況をお聞かせいただけませんでしょうか。
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