Q&A

2025.12.11

【Q&A】009 医療法人の乗っ取りへの対応

 

Q 医療法人の乗っ取りとはどういうことですか。またどのように予防したらよいですか

 

 

 

A

医療法人は医療法に基づき設立される特別な法人で、身近な株式会社などとは権力の決まり方(意思決定の方法)が異なります。株式会社では出資額が多い人がその分権力を持つことになりますが、医療法人(社団)では、原則として社員1人につき1議決権とされており、仮に出資金(持分)を有していても、そのことが直ちに権力を持つことにはなりません。

そして、「医療法人の乗っ取り」とは、理事長に対立する社員X(ここでいう社員は従業員という意味ではなく、社員総会を構成する社員という意味です)が自分の息のかかった人間を新たに社員として入社させ、その一派が社員総会の過半数を占めるということです。その場合、たとえ理事長が出資金(持分)の大半を有していても、またたとえ理事の過半数が理事長支持派であっても、Xの一派が理事長やその支持派を追い出して、医療法人を支配することができるということです。具体的には社員総会を開催して理事長や他の理事を解任し自分たちの息のかかった新たな理事を選任して、法人の経営権(実印や資産の管理を含む)を奪取することです。これが乗っ取りのメカニズムです。

医療法人の社員総会では任期途中の理事を解任することも可能なので、いったん医療法人の乗っ取りが行われるとその後の対応は極めて困難です。

このような医療法人の乗っ取りを予防するために、いくつかの工夫があります。

 

1 ガバナンス、コンプライアンスの実現

医療法人(社団)は家族親族を中心にした経営がなされていることが多く、社員総会や理事会の招集手続や会議体の開催、議事録の作成などが適切に行われず、一部の役員や社員、従業員に一任されているようなケースも見受けられます。

このような場合、社員全員が十分認識理解しないままに社員総会が開催されたり、社員の入社などの重要な議決が行われたり、不適切な議事録が作成される可能性があります。

近時の医療法改正などにより医療法人のガバナンス、コンプライアンスの強化が要請されています。法令や定款に則った適切な法人運営がなされるように今一度、管理体制を見直す必要があります。管理体制を万全にすることで医療法人の乗っ取りを防止することができます。

 

2 社員、理事の適格性

医療法人(社団)では法人運営の基本的事項を社員総会で判断し、実際の業務の執行は理事長を中心に理事会で判断することになります。したがって、社員総会のメンバーとして社員が、また理事会のメンバーとして理事が、さらに法人の運営と経営のチェックを行う監事が、その地位に相応しい人かどうかを定期的に確認することも大切です。

仮に社員や理事、監事がその地位に適さないということになれば、別の人に代わってもらうなどして人的な面で医療法人の運営が実効化されることも医療法人の乗っ取り防止に重要です。

 

3 定款や内部規程の整備

医療法その他の法令やモデル定款は時代に合わせて変更されます。また新しい法律も施行されます。医療法人(社団)の運営の大原則は定款です。また定款をより実効化、具体化するために各種の内部規程も整備する必要があります。

定款や内部規程を定期的に見直し、整備することで違法不当な意思をもった人が医療法人を乗っ取ることを予防することも可能です。たとえば、社員の入社、退社に関する規定や社員総会の招集、開催に関する規定を工夫するなどの対処により医療法人の乗っ取りを難しくする余地もあります。

 

弁護士法人海星事務所では、関与先に医療法人が多く、乗っ取り防止のための施策のご提案や助言相談を日常的に行っています。また、定款の見直しや各種規程の整備にも対応しております。このように常日頃から準備をすることで安定した医療経営を実現することができます。

医療法人の乗っ取りの防止に関心をお持ちの関係者の方は是非一度弁護士法人海星事務所にご相談ください。