Q&A

2025.12.26

【Q&A】020 患者死亡後の対応はどうする?

Q

経営する病院に入院していた患者さんが亡くなりました。未払い治療費の清算や私物の返還は誰と話をしたらよいですか。

 

 

 

A

患者様が亡くなった場合の法律上の交渉・引渡し相手は、単なる「遺族」ではなく「相続人」(および入院時の連帯保証人)となります。

 

 

1.なぜ「遺族」ではいけないのか?

「遺族」というのは一般的な呼び名であり、法的な権利や義務を引き継ぐ人を指すとは限りません。

 

➤未払い治療費: 亡くなられた方の「債務」となり、相続人が支払い義務を負います(連帯保証人がいればその方も)。

 

➤私物の返還: 亡くなられた瞬間に「遺産」となり、相続人全員の共有財産となります。

 

もし、法的な相続権を持たない親族(例:疎遠だったが葬儀だけ仕切っている親戚など)に私物を渡してしまった場合、後から本来の相続人(例:別居していた子供)から「勝手に遺産を処分した」として、病院側が責任を問われるリスクがあります。

 

 

2.「相続人」はどうやって調べるのですか?

相続人を法的に確定させる唯一の確実な方法は、「亡くなられた方の出生から死亡までの連続した戸籍謄本」をすべて取得し、家系図のように繋がりを読み解くことです。

病院が独自に調査することも可能です。病院側に「未払い治療費がある」などの事情があれば、法律上の「正当な理由(自己の権利を行使するため)」があるとして、役所に対して患者様の戸籍請求を行うことは可能です。

しかし、実務上は以下の理由から、病院スタッフ様がこれを行うのは推奨できません。

 

●手続きの複雑さ: 明治や大正時代の古い戸籍(除籍謄本・改製原戸籍)は手書きで読みづらく、専門知識がないと解読は困難です。

 

●手間の多さ: 患者様が本籍地を何度も変更している場合、全国各地の役所へ郵送請求を繰り返す必要があり、膨大な事務負担となります。

 

●プライバシーリスク: 万が一、手順を誤り不必要な戸籍まで取得してしまうと、プライバシー侵害のクレームに発展する恐れがあります。

 

 

3.「相続人」たちの間で治療費の負担や私物の返還について意見が分かれているときはどうするのか?

相続人間の揉め事に病院が巻き込まれると、業務に多大な支障が出ます。

このような場合の鉄則は、「争いには介入せず、厳格なルールで対応する」ことです。

まず、未払い治療費への対応についてですが、相続人たちが「誰が払うか」で揉めていても、病院側が待つ必要はありません。

 

➤連帯保証人がいる場合: 相続人たちの話し合いの結果を待つことなく、直ちに「入院時の連帯保証人」へ全額請求してください。連帯保証人は、法的に独立して支払う義務を負っています。

 

➤連帯保証人がいない場合: 法律上、各相続人は法定相続分に応じて分割された債務を負っています。病院としては「遺産分割協議が終わるまで払わない」という言い分を聞く義務はありません。「法的措置をとらざるを得ない」と毅然と伝え、支払いを求める必要があります。

 

 

次に私物の返還への対応についてですが、こちらは特に注意が必要です。

 

原則:引き渡しは保留(ストップ)してください。 相続人の一人が勝手に持ち帰ると、他の相続人から「病院が勝手に遺産を渡したせいで財産が侵害された」とクレームや損害賠償請求を受けるリスクがあります。

 

対応策: 「トラブル防止のため、相続人全員の実印が押された同意書(代表者受取同意書)と印鑑証明書が揃うまではお渡しできません」と伝え、安易な引き渡しを拒否するのが安全です。

 

こうした感情的な対立がある事案で、病院のスタッフ様が矢面に立つのは精神的にも実務的にも大きな負担です。

 

 

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