Q&A

2025.12.19

【Q&A】 015 医療法人の理事長の離婚

Q
私は医療法人の理事長(院長)を務めています。現在、熟年離婚を考えています。家庭関係それから病院の経営に関してどのような点に注意したらよいですか。

 

 

 

 

A
熟年離婚における家庭関係(プライベート)の側面では、これまでの感謝や情が入り混じり、若年層の離婚とは異なる難しさがあります。
注意すべき主なポイントは以下の2点です。

 

1. 財産分与の徹底的な洗い出しと評価
婚姻期間が長ければ長いほど、また婚姻中に作られた財産が多いほど、夫婦共有財産は複雑になります。預貯金だけでなく、不動産(自宅や投資物件)、生命保険の解約返戻金、将来受け取る予定の退職金、株式なども含まれます。 原則としてこれらは「2分の1」ずつ分けますが、特に不動産は「いくらと評価するか(時価か路線価か等)」や「誰が住み続けるか」「売却して現金化するか」「ローンをどう処理するか」などで意見が対立しやすく、税務上の問題も発生します。

 

2. 年金分割と生活設計
離婚後の生活安定のために、厚生年金の記録を分割する「年金分割」の手続きは必須です。また、離婚が成立した瞬間に配偶者としての「相続権」は失われます。遺言書の書き換えや、ご自身に万一のことがあった際の財産の行方についても、再設計が必要となります。

さらに医療法人の経営者が当事者となる場合、一般の離婚とは全く異なる「経営防衛」の視点が不可欠です。以下の2点に注意すべきです。

 

3. 医療法人の「出資持分」と財産分与
最大の懸念事項です。医療法人の「持分」をお持ちの場合、それも夫婦共有財産として分与対象となり得ます。長年の経営で法人の内部留保が蓄積され、持分評価額が高騰しているケースは少なくありません。 もし、持分の財産分与の後、高額な評価に基づき医療法人に対して持分払戻請求がなされて現預金での解決を求められれば、病院の運転資金が枯渇し、経営危機(黒字倒産など)に直結するリスクがあります。法人の資産を守るためには、税務上の適正な株価評価や、支払い方法に関する高度な交渉が必要です。

 

4. 役員・従業員としての配偶者の処遇
配偶者が法人の理事や事務長、経理担当などを務めている場合、離婚と同時に辞めてもらえるとは限りません。民法や医療法、労働法などの法律が絡むため、法的に正当な手順を踏まなければ、不当解雇や損害賠償請求等のトラブルに発展し、病院の社会的信用を傷つける恐れがあります。

 

このように長年の夫婦関係の清算は、ただでさえ感情的な対立を招きやすいうえに、「適正な財産評価」と「将来を見据えた法的合意」を実現するには当事者同士の話し合いだけでは解決が困難なケースが多く、専門家の支援が必要です。
さらに医療法人の経営者の離婚問題は単なる家事事件にとどまらず、「医療経営、税務、企業法務」が複雑に絡み合う難局です。ご自身の判断だけで進めることは紛争の長期化、法律、税務上の思わぬ落とし穴もあり、危険です。

 

~新たな人生のスタートと、病院の安定的発展のために~

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